里親の家を脱走した里子への想い

gladiolus2009 による 7. グラジオラスの場合 への投稿 (7. グラジオラスの場合)
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私がS宅にいるあいだ、2人の里子が脱走をはかったの。
うちひとりは高校生だったマリちゃん。
残された私はただただ驚くばかりだったけど、今になってみると、
彼女は逃げ出す前から緻密な計画をたてて実行したと思うの。

マリちゃんはいつものように学校に行って、二度と帰ってこなかった。
あまりお金をもってない高校生、しかもうら若い女子高生が
学校に行ったきり連絡もしないで深夜になっても帰宅しなければ
普通の親なら心配で食事も喉をとおらず夜も眠れないと思うけど、
そこはあくまで里子と里親、しょせんは赤の他人ね。
里親は烈火のごとく怒り狂ったけど、そこにあるのは「怒り」だけ。
マリちゃんの身を案ずる様子はなかったわ。これっぽっちも。

かくいう私もマリちゃんのことを心配してたといえばウソになるわ。
正直、私は彼女に腹を立ててたの。
S夫妻は地獄のように不機嫌で里子たちに当たり散らすし、
私たちは里親の顔色をうかがってビクビクしながら暮らしてたの。
マリちゃんが脱走してしばらくは里親の不機嫌に当てられないよう、
そればかりに神経を張り巡らせて気が休まるヒマがなかったわ。
マリちゃんのせいで罪のない私たちがヒドイ目に遭ってると思ったし、
ひとり抜け駆けした彼女を「ずるい」と思う気持ちもあったしね。

ある日のこと。
放課後、学校から里親宅に向かう道すがらマリちゃんに会ったの。
とつぜん誰かが横から出てきて腕を引っ張られ、
ビックリして犯人の顔を見るとマリちゃんで、さらにビックリしたわ。

「マリちゃん!」
私は思わず声を上げたわ。
彼女は別人のようにキレイになってたの。
里親の家にいた当時はダサいボブだった髪の毛は栗色に染められ、
顔はきれいにお化粧をほどこしてオトナっぽく見えたわ。

「シーッ、大声だすんじゃないよ」
彼女は声をひそめ、じろりと私を見据えた。
「グラジオラスちゃんにお願いがあるんよ」
「お願い?」
「あんたに持ってきてもらいたいものがあるの」
私は思わずマリちゃんをジロリと凝視したわ。
だって彼女のせいでS夫妻の機嫌は最悪で、
ヒドイ目にあわされてる真っ最中だったから。

「ごめん、あんたにイヤな目に遭わせちゃったね」
私の気持ちを悟ってか、マリちゃんは申し訳なさそうな顔をしたわ。
「タダとは言わんよ、お小遣いあげるからさ」
彼女は財布から1000円札を2枚ぬきだし、私の手に押し込めた。
「持ってきてくれたら、5000円あげるよ」
「なにを持ってきてほしいの?」
「私のマグカップ」
「マグカップ?」
「うん、私が使ってたマリーのマグカップあるでしょ。あれ、私のなのよ。
盗んでこいと頼んでるワケじゃない、私のものを取り返す手伝いをしてほしいの。
ね、グラジオラスちゃん、一生のお願い」
マリちゃんは真剣だった。
あとで会う約束をして、私はマリちゃんと別れたわ。

そのとき、私は里親に密告して自分のスコアを稼ぐこともできたし
マリちゃんに腹いせすることもできたけど、そうしなかったの。
もちろん「お小遣い」につられたせいもあるけど、
彼女は私に意地悪しなかったし、世話になった恩がないわけでもなかったし、
なにより彼女のなんだか必死な様子に心を動かされてしまったのね。
私はこっそりマグカップを持ちだしてマリちゃんに手渡したわ。

「グラジオラスちゃん、ありがとね、あんたも元気でやるんよ」
そう言い残して、彼女は足早に去っていったわ。
私がマリちゃんを見た最後の姿だったの。

あのカップのどこに7000円の価値があるのか私にはわからないわ。
それほど高価なものには見えないし、新品を買うほうが安く上がりそうだけど、
彼女にとっては7000円を払ってでも「取り戻す」価値があったの。
その理由はマリちゃんにしかわからないし、当時は気にもかけなかったけど、
最近になって、その理由を知りたいと思うようになったの。
今となっては彼女に会うすべもなく、どこにいるのかもわからないけど・・・

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コメント
  1. ミチル より:

    安全で安心できるはずの里親家庭を逃げ出すということは・・・
    心配ではなく怒りだけなんて、ちょっと考えられないよね。
    人様のお子さんを預かってるわけだし、いくらなんでも無責任すぎる!

  2. gladiolus2009 より:

    里親の家から脱走する子どもは少なくないと聞いたことがあります。
    安全で安心できる場所なら、誰も「二度と帰らない覚悟で」逃げ出したりしないのです。
    でも、里子が脱走すると、逃げだした子が「恩知らず」の「そういう子」になってしまうんですよね。

  3. ミチル より:

    この所、のりPのことばかり騒がれてるけど、一番迷惑かけられたのは、
    のりPの子供なんだから、周りはほっといてあげればいいのにと思う。
    覚せい剤の影響で、苦しむのも本人だしさ・・・
    こんなことを大きく報道するより、里親家庭の虐待をもっと、
    世の中の人達に知ってもらった方がいいのにね。
    近所に児童養護施設があるんだけど、かなり古い建物だったから、
    15年ぐらい前に建て直して、冷暖房完備で綺麗になったんだ。
    そこに集まる子供達は、色んな理由で親元に居れないから、
    入所してるのにさ、近所のオバサン達は、
    ”休みにはお出かけして、冷暖房完備だし、私らよりいい暮らししてるよな~”
    ”自分も入りたいぐらいだ!”
    もう呆れて何も言えませんでした。
    好きで施設で暮らしたい、子供がいるわけないのにさ・・・

  4. gladiolus2009 より:

    「施設に入りたい」と望むのは、里親宅で辛い経験をした子どもくらいですよね。
    それだって「里親の家よりはマシ」という消極的選択であり、
    好きこのんで施設で暮らしたいワケではありません。
    保護児童の多くは事情が許すなら親もとで暮らしたいと望んでいるのです。
    「似非家族」「家庭もどき」を与えてやれば満足するだろうと思ってるとしたら、
    ヒトをバカにするのも程がありますわ。
    世界にたった一つだけの、かけがえのないものを失って悲しみに暮れている子どもに
    安ピカのマガイモノ、代替品を与えれば満足するとでも思っているのでしょうかね?
    虐待のない里親家庭というものがあったとしても、しょせん里子と里親、赤の他人に過ぎません。
    たとえば、里子と実子が不仲になれば追い出されるのは里子です。
    なぜなら里親と実子は正真正銘の家族ですが、里子は家族ではないからです。
    本当の家族なら、兄弟が不仲でも、親はどちらかを選んだりしないものです。
    本当の家族なら、親は子どもの容姿や性別を選んだりしないものです。
    本当の家族なら、法的な親子関係が子どもにもたらすメリットを拒否しないものです。
    家族扱いしてないクセに「家庭を与える」とかいう欺瞞はやめていただきたいですわね。

  5. みき より:

     初めまして、みきです。同じPTSD部門でブログを綴っています。
    数日前、貴女のブログに出会いました。
     それ以来、驚きつつ、最近の投稿や人気記事を、次々と読みました。
    内容が重くて、軽はずみなコメントはあまり書けません。
     ただ、日本の隠れた大きな問題、歪み、そういったものを
    あなたのブログから感じ取りました。少なくとも私は、そのような真実を
    初めて知りました。
     よく立ち直られたと敬服します。今後も書き綴ってくださいね。読ませて頂きます。

  6. ミチル より:

    実子も里子も関係なく、同じように愛情をかけられないなら、
    初めから里親なんて引き受けなければいいのに・・・
    再婚を繰り返して、余裕もないのに子供作って、給食代も払わず、
    その上、虐待までしてる家庭がありました。
    父親がチンピラだから、教師も何も言えず・・・
    母親も守ってあげれなくて、なのにその子は、
    母親が大変だからと、下の子の面倒を見たりしてました。
    高校だって行きたかったのに就職させられてさ。
    本当の家族のはずなんだけどね。
    家族ってなんなんでしょうか・・・

    \\

  7. gladiolus2009 より:

    >みきさん
    はじめまして。
    当ブログをお読みいただきまして、ありがとうございます。
    内容は軽くはないかもですが、あまり重々しく考えなくていいですよ。
    ただ、少しでも多くの方に当ブログをお読みいただいて、
    里親制度の現実を知っていただければ、それだけで嬉しいです。
    そして、当ブログを快く思っていない方々がおられることや、
    あの手この手で私たちの口を封じようと必死な方々がおられることも
    併せて知っていただけると嬉しく思います。
    またお越しくださいね。

    >ミチルさん
    親による子ども虐待も非常に悲しいことですが、
    わが子を虐待する親と里子を虐待する里親は、まったくのベツモノだと思います。
    里子を平気で虐待する里親も、実子に対しては愛情たっぷり、
    これみよがしに里子と実子に差をつけて見せつける里親もいますからね。

  8. ミチル より:

    愛情に差をつけるってすごいですね。
    いたいけな子供に対して、そんな意地悪して何が楽しいのか・・・
    いくら愛情たっぷりでも、そんな異常な家庭環境では、
    その実子も歪んだ人間に育ちそう。
    いい大人が、そんな事もわからないのかな。

  9. gladiolus2009 より:

    愛情に差があるのは、仕方ないと思います。
    他人の子より血をわけた我が子がかわいいのは当然ですもの。
    それならそれで他人の子に「お父さん」「お母さん」と呼ばせて
    上っ面だけの「エセ家族ごっこ」にいそしむよりも、
    女中だろうが女工だろうが娼婦だろうがペット役だろうが、
    労働者と雇用者として契約を交わして無給のかわりに家賃タダ、
    光熱費タダ、まかない付きの待遇で奉公人感覚で暮らすほうが
    おたがい精神衛生上よろしいかと思いますが、いかが?

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